モンティ・ホール問題の何が問題なのか?
山田満(Marxstat)
モンティ・ホール問題とは何か
モンティ・ホール問題とは、次のような確率ゲームである。
いま、三つの箱(A, B, C)があり、そのうち一つに「当たり」が入っている。ここで、「ゲーム参加者:a」が、そのうち一つのもの(例えば、A の箱)を選ぶ。
次に、このゲームの主催者が「ゲーム参加者:a」の前で、残った二つの箱のうち「ハズレ」の箱を一つ取り除き、二つの箱を「ゲーム参加者:a」に示し、「このうち一つに「当たり」が入っています。あなたは最初の選択(Aの箱を選んだ)を変えることができます。どうしますか。変えますか、変えませんか?」
はたして、「ゲーム参加者:a」は、最初の選択を変えたほうが良いのだろうか?
モンティ・ホール問題の解答
普通に冷静に考えれば、解答は簡単である。もし、最初に選んだ箱が「ハズレ」である可能性(確率)が「当たり」の可能性より高ければ、最初の選択を変えたほうが良い。「ハズレ」の可能性は 2/3 、「当たり」の可能性は 1/3 である。よって、変えたほうが良い。変えれば、2/3 で当たるからである。難しいことなど一つもない簡単な問題である。
[補記]競技者がひとつを選んだとき、残りの二つのうちどちらか一つが「当たり」である確率は 2/3 である。その残りのうち「ハズレ」の箱を一つ取り除くのだから、残った箱が「当たり」である確率は 2/3 である。
なぜ、難しく考え、間違えるのか?
実は、モンティ・ホール問題が提起していることは、ここにある。巧みな「話術、仕組み」によって「騙される」のである。しかも、「一流の数学者も間違った」というキャッチフレーズまで付けられ流布されたので、さも難しい問題のような体裁をとっているから、なおさらである。
いま、「騙される」と言ったが、どうして騙されるのか。
「グレート・リセット」の神話
その理由は簡単である。「グレート・リセット」の神話が発動され、それ以前のこと(「ゲーム参加者:a」が最初に箱を選んだ時の状況)を「忘れてしまう」からである。最初のゲーム状況を忘れてしまえば、「ゲーム参加者:a」は、当たりの確率(可能性)が 1/2 (二択)の世界(空間)に置かれることになる。そこで、迷うわけである。「過去の記憶の忘却」、それが全てであり、このゲームは、そのために仕組まれている。
過去の記憶の忘却とメモリー効果、資産効果の問題、あるいは、アファーマティブ・アクションの問題
過去の記憶を保持し、このゲームを一連の過程(プロセス)として考えていれば、間違えるはずはないのである。統計解析(時系列解析)では、このような過去の記憶の保持によるプロセス(確率過程)を「メモリー効果をもった過程」と呼ぶが、社会経済的に言えば、「資産効果が作用する過程」である。
「資産効果が作用する過程」、このことは、次のような状況を思い描けば明瞭である。
いま、「ゲーム参加者:b」が、主催者が残りの箱のうちハズレの一つを取り除いた後に、このゲームに参加したとする。ただし、「ゲーム参加者:b」は「ゲーム参加者:a」の選択を知らないとする(つまり、「ゲーム参加者:b」は、なんのメモリー(資産)も持っていない。この「ゲーム参加者:b」にとって、このゲームは二択(確率 1/2 )の世界空間である。
ところが、メモリー(資産)をもったもの(ゲーム参加者:a)にとっては、このゲームは確率 2/3 で当たりの出る世界空間である。ここに、平等な外観(機会平等のたてまえ)をとった世界空間における、実質的不平等の問題が浮上する。資産効果、メモリー効果が存在する世界では、何らかの積極的是正処置(アファーマティブ・アクションと呼ばれるもの)が行われなければ、不平等なゲームが実質的に行われ、常に「持てる者」が確率的に優位に勝負(競争)が進んでいくのである。
ベイズ推定、条件付き確率との関係はあるのか
モンティ・ホール問題を条件付き確率の問題として捉え、ベイズ推定の問題に繋ごうとする試みがある。確かに、事後的にゲームの状況(空間)が変化し、確率が変動していく状況を捉えるベイズ推定と関連していると考えることは自然の流れである。しかし、どうか。
ベイズ推定は、条件付き確率から数学的に演繹(導出)されたベイズの定理に基づいている。したがって、このモンティ・ホール問題を条件付き確率の問題として考えるのが妥当であるのかが問題となろう。
条件付き確率とは、ある確率 Pr (A) が付帯条件 E が付与されたとき、「標本空間」が収縮することで、確率 Pr (A | E) が変化することである。たとえば、52枚のトランプカードがあり、その内訳は、ダイア(赤)、ハート(赤)、クラブ(黒)、スペード(黒)がそれぞれ13枚である。いま、そのうち一枚のカードを無作為に選んだとする。その抜き取ったカードがダイア(赤)の7である確率は Pr (ダイア7) は 1/52 である。ここで、事後的に、抜き取られたカードが「赤」であることが判明したとすれば、「標本空間」に残るカードは赤のカード26枚に収縮するので、確率は 1/26 に上がる。逆に、もし、抜き取られたカードが「黒」のカードであることが判明したとすれば、標本空間の収縮に伴い「赤」カードである可能性は消失する(ダイアのカードと黒のカードとの積集合は空集合、ゼロとなる)ので、確率はゼロとなる。
条件付き確率とは、上述のように、ある同一の平面上にある標本空間が収縮することに基づく確率の変化に関するものである。ここで問題となってくるのは、モンティ・ホール問題が提示している事態は、条件付き確率が想定するような「標本空間」の収縮の問題なのかということである。そこで起きていることは、ある標本空間の収縮ではなく、ある「標本空間 A 」が別の「標本空間 B」に移行したということではないかということである。もしそうであるならば、モンティ・ホール問題は、プロセスの進行のなかで、ある標本空間が別の標本空間に移行した場合に、移行前の確率が移行後にどのように変化するかという新しい問題を提起していることになる。われわれはこの問題をどう扱うべきなのだろうか。
[追記]「(全てのケースを列挙して)自然頻度で考えろ」というゲルト・ギーゲレンツアーの勧めに従いモンティ・ホール問題を解いてみる。
三つの箱(A, B, C)のうち、A に「当たり」が入っているとする。
競技者がひとつの箱を選び、主催者が残りの箱のうち「ハズレ」の箱を一つ取り除いた後に、競技者が「当たり」を得る可能性は次のケースとなる。
(1)競技者が最初に「当たり」の箱 A を選び、その選択を変えないとき、
(2)競技者が最初に「ハズレ」の箱 B を選び、主催者が残った箱のうち「ハズレ」の箱を一つ(ここでは C の箱を)取り除いた後に、選択を変えた場合、
(3)競技者が最初に「ハズレ」の箱 C を選び、主催者が残った箱のうち「ハズレ」の箱を一つ(ここでは B の箱を)取り除いた後に、選択を変えた場合、
以上、三つのケースがある。「選択を変えた」が2ケース、「選択を変えない」が1ケース。「選択を変えた」と「選択を変えない」のオッズ比は、2対1、よって、「当たり」を得る確率は、「選択を変えた」場合は 2/3、「選択を変えない」場合は 1/3 である。よって、選択を変えたほうが良い。
ゲルト・ギーゲレンツアーの著作としては、
『リスク・リテラシーが身につく統計的思考法:初歩からベイズ推定まで』吉田利子 訳、ハヤカワ文庫、2019年刊。
The Empire of Chance, How probability changed science and everyday life, Gerd Gigerenzer et al., Cambridge U.P., 1989.
Adaptive Thinking, Rationality in the Real World, Oxford U.P., 2000.)
などがある。いずれも、大変良い書物である。