韓国:1970年代における社会階級構成の変形過程
山田満(Marxstat)
1981年に、私はある民間非営利組織から「韓国の社会階級構成表(大橋隆憲方式による社会階級構成表)」の作成依頼を受け、朴政権下(1963年から1979年まで)における韓国の社会階級構成・社会階級構造の分析を行ない、調査報告書を作成した。その報告の一部について、ある大学の学生新聞に1981年から1982年前半にかけて公開する機会があり、新聞原稿として執筆し直し、掲載した。
当時作成した膨大な手書きの階級構成表等の統計表や報告書類などは、すべて行方不明となったが、論考が掲載された新聞のコピーが手元に残っていたので、ここに掲載することにした。
なお、韓国の国名表記を「南朝鮮」としているが、これは国名省略の国際表記の通例(South/North Korea ; la Corée du Nord/Sud)に従ったまでであり、他意はない。
1970年代における南朝鮮の社会階級構成
山田満(Marxstat)
前号では、朴政権下の時期の「階級構成表」を提示し、若干の技術的解説をおこなった。本号では、この「表」の解説を兼ね、南朝鮮における階級構造の特徴を浮き彫りにする作業にとりかかりたい。
1.従属工業化的資本制発展と階級構造の変形
朝鮮戦争以降の南朝鮮社会構成体の発展は、開発戦略との関連で「輸入代替型工業化」から「輸出指向型工業化」への発展として捉えられるが、史的唯物論的「第三世界論」の今日的展開では世界的規模での資本蓄積(=資本制生産諸関係の国際化)の現段階との関連で、これを《従属工業化的資本制発展》として捉えるようになってきている。《従属工業化的資本制発展》とは、帝国主義本国に足場を有する諸資本の蓄積運動の新段階に対応した生産資本循環を支配的形態とした資本の国際化様式によって産出された帝国主義諸資本による被支配・従属的社会構成体の新しい形態での搾取・収奪様式を指示しており、以前の商品資本循環・貨幣資本循環を基軸とした資本の国際化様式に規定された従属的構成体の収奪様式と根本的に異なって帝国主義諸資本の主導の下で従属的構成体を資本制生産様式が支配する構成体へと変形することにより、直接的に生産過程の場で資本制的搾取様式 ー 絶対的・相対的剰余価値生産の下での剰余労働の抽出 ー を組織しようとすることにその特徴を有している。
この様式による従属的構成体の資本制発展は、「従属的」と形容されうる独自の様式を呈する。
帝国主義諸資本の主導の下での資本制生産様式の展開は、従属的構成体が有する豊富な低賃金労働力をより効果的に利用することで、剰余労働の搾取・収奪を強化しようとするためのものであり、帝国主義諸資本のこの運動(戦略)によって資本制発展の様式は規定されるからである。もっと言えば、その発展は、当該構成体の内生的発展の論理とは関係なしに、帝国主義諸資本の論理の下で組織され、その結果として一部の労働集約的な産業と生産工程とに偏重した、かつ帝国主義的諸資本の戦略の下に統合され自律性を喪失した、制限された不均等な資本制発展となる傾向があるのである。
同様に、この資本制発展が、いわゆる「二重経済論」が想定するように非資本制的部分と切り離された「飛び地」でなされるのではなく、当該構成体の全体をこの発展の論理に統合し、この発展に向けて「動員」され、従属的資本制に独自の社会構成体の編成様式が生み出されるのである。この独自の編成様式は端的には、《マージナルス(周辺的・限界的社会カテゴリー)》と呼ばれる独自の社会的集団の大量的存在によって、換言すれば、この集団を基盤に生み出される剰余労働(=蓄積資金)と(低賃金)労働力との従属的資本制生産様式への移転(移動)諸機構とこれを統括する国家諸装置の働きによって特徴づけられる。従属的資本制社会構成体とは、《マージナルス》と呼ばれる社会集団(それを支える社会諸関係)を基底層にもち、これに従属的資本制生産様式が上からかぶさり、これにさらに帝国主義的諸資本がかぶさるという仕方で編成されているのである。そして、この編成様式に従って下から上へと剰余が収奪されていくわけである。
こうした従属的資本制発展=従属的資本制社会構成体の形成は、階級構造(=階級闘争様式)の独自な変形過程であり、独自な階級構造の形成過程である。この変形過程は非資本制様式から資本制への移行過程一般を特徴づけるプロレタリア化過程(生産手段からの直接生産者の分離/直接生産者からの剰余労働の収奪)と「プロレタリア化」された労働力の資本制生産様式への統合課程から構成される。従属的資本制への移行を特徴づけるのは、この諸過程の独自性である。
一般に、「第三世界」構成体の資本制への移行過程は移行の凍結(ル・ブロカージ blocage/ブロッキング)という概念で特徴づけられるが、従属的資本制への移行過程にある諸構成体 ー 「中進国」とか「新興工業化諸国(NICs)」というイデオロギー的言葉で表現される ー に特徴的なのは、この凍結の独自的システムが従属的資本制様式の局部肥大的な発展に向けて作用することである。他の「第三世界」構成体の場合、この凍結は文字どおり資本制生産様式の形成を一部の一次産品産業と関連した分野に極限し、 ー しかも、形成された資本制様式は従来の非資本制様式に強く結び付けられた労働力や外国人労働力に強く依存し、いわゆる近代的プロレタリアの形成はごく一部にしかみられない ー 、資本制様式が支配生産様式へと発展することを阻止するのにたいし、従属的資本制発展の場合には、この凍結がそれを支配的様式として確立するのを可能とするのである。
従属的資本制へと移行しつつある構成体におけるこの凍結は次の諸要素によって規定される。
(1)農業部門を中心とした在来生産者層(「自営業者」カテゴリー)は従属的資本制へと向けた発展過程のなかでプロレタリア化過程に入るが、完全にプロレタリア化されることはなく、支配的傾向としては社会的生産のなかで相対的地位を低下させ周辺的生産者層へと変形されつつ残存しつづける。こうした状況は、在来生産者層の分解による資本制生産様式の内生的発展を阻害する(例:農業資本主義化の凍結)。
(2)しかし、内生的資本制発展の凍結を意味する在来生産者層の周辺化は、従属的資本制様式の発展を可能とする諸要素を産出する。第一に、低賃金労働力供給源(=再生産装置)としての周辺的生産者層の働き:(a)周辺的生産者化は従来生産者部門では益々吸収しえなくなる若年層を中心とした労働力の大量のプロレタリア化(例:農村から都市への定住的・長期的・季節的・」日ごとの移動)を可能とする、(b)このプロレタリア化された若年労働力は出自の周辺的生産者の生活水準 ー 生活様式ではない ー が低いため低賃金で雇用されうるし、大量のプロレタリア化された労働力の産出は相対的に狭隘な労働市場における労働者間の競争を激化させ、低賃金を固定化する方向に作用する、(c)周辺的生産者層の残存は、非資本制的諸関係を含んだこの生産者層へのそこを出自とする労働力の経済的・イデオロギー的・政治的きずなを再生産し、この労働力の近代的プロレタリアートとしての階級的自律を阻害する、(d)周辺的生産者層の残存は、資本制諸装置による労働力再生産にくらべ、その再生産費を傾向がある。 第二に、従属的資本制様式による剰余労働収奪源としての周辺的生産者層の働き:農業生産者に対しては、例えば(a)国家の農業生産物価格の政策的コントロールによる低農産物価格=低賃金労働力確保政策、(b)農業機械・肥料等の資本制的工業生産物と農産物との「不等価交換」(過剰工業生産物の農民への強制的消費の押し付けを含んで ー 例えば、韓国セマウル運動下での肥料・セメントの強制消費の押し付け)、(c)各種の租税の徴収等を通しての、 また製造業・鉱業を軸とした非農林業生産者に対しては、下請け・再下請け制度の体系を通しての剰余労働の収奪。これらの収奪が一方で労働力の低賃金に基づく雇用を可能とし、他方で発展する資本制様式が必要とする蓄積財源の一部を補給するのを可能とする。
(3)以上は在来生産者層のプロレタリア化過程の凍結に重点を置いてその諸機能を定義したが、そこでの諸規定は従属的資本制構成体に限らず、一般に「第三世界」の他の諸構成体にも当てはまると言えないこともない。差異を明確にするには、資本制生産様式への労働力の統合過程に重点を置いて、その諸機能を定義する必要があるだろう。一般に「第三世界」構成体における移行の凍結は、商品資本・貨幣資本循環の支配下での帝国主義諸資本の浸透が在来生産者層をプロレタリア化に引き入れる一方で、帝国主義諸資本によって移植された資本制様式は資本蓄積の戦略上、一部だけに形成されるに過ぎず、全般的に波及するのを制限され、そのためにプロレタリア化過程にある在来生産者層のプロレタリア化=賃金労働者化が凍結され、在来生産者層が残存する結果であるが(この過程で「第三世界」構成体に独自の諸生産様式がどのように作用するかは議論のあるところである)、従属的資本制構成体の場合には、帝国主義的諸資本の蓄積様式への新形態への移行に伴う従属的構成体への資本制生産様式の積極的「移植」がプロレタリア化された労働力の資本制様式への統合を急速に推進し、資本制様式を支配的様式として確立させるのであり、この限りでは移行の凍結について語ることはできない。にもかかわらず移行の凍結について語る必要があるのは、この資本制様式が従属的性格をもつからである。従属的資本制様式は移行の凍結をその発展の条件とする。第一に、この生産様式は低賃金労働力の豊富な供給をその存在条件としているが、その安定的な供給の確保には在来生産者層の周辺化が必要条件である。第二に、この生産様式の下で発展する諸産業・諸生産工程の種類・性格は、この様式を「移植」する帝国主義諸資本の蓄積戦略に基づいており、一般に従属的構成体の内生的資本制発展と連動しないばかりか、「移植」された諸産業・諸生産工程の「選択的」発展に向けて「諸資源」(蓄積資金・労働力、その他の便益)が「動員」されるため、その他の諸産業・生産工程の資本制発展が凍結される(資本蓄積の今日的段階において従属的発展以外の資本制発展が可能か否かは問題となるところだろう)。換言すれば、従属的資本制発展は制限された不均等な発展であり、「戦略的」産業・生産工程以外の諸部門の発展の凍結を条件とする。第三に、(a)この発展は「制限された不均等な発展」であるために、大量の雇用労働力に対する需要を産出するにもかかわらずプロレタリア過程に置かれた労働力は不十分にしかし本姓様式に統合されない、(b)しかも、こうした条件下での資本制様式への労働力の統合は労働者間の競争を激化させ、大量の不安定・不完全雇用(契約)形態の労働者群(周辺的労働者群)を生み出す、(c)さらに、こうした状況は都市自営業者(周辺的生産者)の拡大の条件となる。
以上で本稿は、《移行過程の凍結》という概念を軸として従属的資本制社会構成体への移行に伴う階級構造の変形過程を規定する諸要素を規定した。南朝鮮における階級構成の変形は、この特徴を明示している。以下、章を改め、南朝鮮階級構成の変形の諸特徴を明示する主要な要素を規定しよう。
二、南朝鮮における階級構成の変形の諸特徴
南朝鮮における従属的資本制発展は、次のような階級構成の変形を伴っている。
(1)従属的資本生産様式の発展に伴う雇用労働力の量的拡大と資本制的諸階級形成・発展(グラフ1を参照):
(a)一般に、労働者階級の量的拡大、周辺的労働者群の大量的存在、と新しい小ブルジョアジーの急速な増大、
(b)中核的射級の中核部隊である鉱・工・運輸通信生産的労働者(工業プロレタリア)のとりわけ急激な拡大、
(c)新しい小ブルジョアジーは雇用労働者(被雇用者・被用者 employee)のうち相対的に良い雇用条件のもとで従事している職業的カテゴリーによって構成されているが([表1]を参照)、事務職および専門技術職のなかの一定のカテゴリーの増大は資本制様式の発展の不可欠の構成部分である(なお、専門技術職は大別して(1)生産的労働者として労働者階級上層に位置付けることも可能な技術と、研究者・教員・医療関係者・司法関係者・会計士・芸術家・ジャーナリスト・プロスポーツマン等の不生産的労働者群とから成る)、
(d)資本制様式の急激な拡大の指標として『事業体労働実態調査』の事業体規模別従業員数(常用雇用労働者+日雇い労働者+自営業者・家族従事者 数)をとれば、500人以上事業体に属する従業員数の増大を指摘しうるが(10人以上事業体の従業員総数に占める500人以上事業体に属する従業員数の構成比率は 1962年の22.1%から1979年に39.6%へ、また、100人以上事業体に属する従業員数の比率は1962年の46.0%から69.8%へ、それぞれ上昇している)、これは近代的プロレタリアート形成の諸条件が整いつつあることを示している。
(2)形成されつつある資本制生産様式の従属的性格と被雇用労働者の内的構成へのその効果:
(a)資本制様式の従属的性格は産業別雇用者数に表示されている。『事業体労働実態調査』によれば1979年4月30日現在の5人以上従事 事業体における雇用者総数329万6千人(うち女122万8千人)のうち製造業部門雇用者は212万8千人(うち女79万8千人)であるが、この製造業部門の内訳は繊維・衣服(63万2千人、構成比率29.7%、うち女46万人、女性雇用労働者の47.2%)、電気機械(25万6千人、うち女14万1千人)、」金属製品(13万3千人、うち女2万7千人)を中心として軽工業輸出産業を中心に構成されている。
(b)上述のように金属関係を除いて軽工業輸出産業の被雇用労働力は女性労働力(特に女性工業プロレタリア)に大きく依存しているが、これは女性の低賃金未熟練労働力をこの部門が不可欠の存在条件としていることを示している。この女性工業プロレタリアの大多数が初等・中等学校卒(約70%)であり、しかも勤続年数・職歴が 0から4年の者が約90%であることから明瞭なように南朝鮮の従属的資本制様式は女性労働力の「使い捨て」に大きく依存している。
(3)マージナルスの存在:
(a)周辺的労働者人口の形成については「階級構成表」F項のデータ(経済活動人口の約2割を占める不完全雇用契約者数)が一つの指標であるが他の指標として従業員5人以下事業体の全雇用者と5人以上事業体に雇われた「日雇い労働者」を合計した約290万人(全雇用者に占める構成比で約45%、1979年3月~4月時点)をあげることができる。
(b)周辺的生産者層の形成については、1979年4月現在5人以上従事事業体に関与している自営業者・家族従事者は約5万人であることを一つの指標として提示しておこう。
以上で、南朝鮮階級構成の変形の特徴を説明する諸要素を提示した。その階級構造の立ち入った分析は別の機会に行うことにしたい。(1982年3月)
(注記:統計調査に関する用語について)
・[表1]で《常用雇用労働者》とあるのは『職業別賃金調査』(韓国労働庁)把握対象となる10人以上常用雇用労働者を雇用する全事業体(但し、政府・地方行政機関、国公立教育機関、軍・警察を除く)に雇用される「月極で賃金・給与を受け取る全雇用者および調査日から前の3ヶ月間に45日以上雇用された全雇用者」を指示しており、『経済活動人口調査』での「常用雇」・「臨時雇」・「日雇いの一部」を合計したものに相当する。『事業体労働実態調査』(労働庁)の《常用雇用労働者》も全く同様に定義される(したがって、《日雇い労働者》とは、それ以外の全被雇用者を支持することになる)。なお、《事業体》とは、財・サービスを生産・提供する物理的場所のことで、《企業》とは区別される(一つ、あるいは複数の事業体[事業所]が一つの企業を構成する)。
・《経済活動人口》:《労働市場[=労働力商品市場]》に参入している人口。《従業者》、《休業者》、《完全失業者》からなるが、軍人は除かれる。
なお、《従業者》とは調査によって指定された一週間に1時間以上、収入を伴う仕事をした者のことで、これには《(無給)家族従事者》も含まれるが、軍人は除かれる。《完全失業者》とは、収入を伴う仕事に従事する意思と能力を持ちながら、調査指定週間内に1時間未満しか収入を伴う仕事をしなかったか、全く従事しなかった者。
・《従業上の地位区分》:いかなる法的契約関係のもとで経済活動人口が当該事業体(=事業所)に関与しているかを示したもので、(1)自営業主・雇用主、(2)無給家族従事者、(3)被雇用者(役員を含む)、に区分される。